私は負けている

私は、当たり前だけど、
会っている時以外
Jの姿が一切見えない
声を聞くこともできない

Jが今日生きていることを知る唯一の手段は、iPhoneのメッセージしかない

だから、「おはよう」や「いってきます」のメッセージがないような日は、Jが朝起きたのかも、会社に行ったのかも、別の場所に行ったのかも、休んだのかも、倒れてるのかも、元気なのかも、具合悪いのかも、全く私にはわからない

Jはただ単に、仕事のことで頭がいっぱいで、「いってきます」を忘れたりするだけだと、わかる

でも
家を出る時、玄関に立つ奥さんに
いってきますを言い忘れるなんてことはないだろう
朝起きて、顔を合わせて、おはようを言い忘れないだろう

私は完全に下の位置にいる

ある日の朝、JはiPhoneを忘れて家を出た
ただ忘れただけだ
単なる忘れ物である

その日の前夜、寝る前のハングアウトをしている時、突然5分会話が止まった
奥さんがJに話しかけたのだ
Jは私の会話を中断し、奥さんと会話
二人が会話する光景がまざまざと目の前に広がった
あっという間に、自分の中の力という力が奪われていくのがわかった
iPhoneをどこかに投げつけたくなった
だけど思いとどまって、力奪われたまま画面を見続けていた

奥さんはJの姿を見ながら、同じ空間に立ち、接近し、会話した
触ろうと思えば触れる距離

私とは違って、毎日普通に会話できるのだ
目の前にいて話しかけてくる人を無視することはないだろう
iPhoneの会話は無視できるのだ

私は一番になれない

私は負けている

その後、最悪な気分で眠った私は、最悪な夢を見た
Jと奥さんが登場する悪夢だ

発狂して飛び起きた

次の朝「おはよう」もなくJからの連絡が途絶えた

iPhoneを取り上げられたのか、壊わされたのか
Jが倒れて運ばれたか
奥さんが倒れて私に連絡できないのか…

最悪の想像しかできず、頭がおかしくなりそうだった
不安の中、会社に行ったものの、午前中は何一つ仕事が手につかなかった

私はJがその日、都内でセミナーだということを知っていて、会場の場所と何のセミナーかについてもたまたま詳しく聞いていた

私は昼休み、少し早く出てセミナー会場に向かった
セミナー会場は会社から電車を乗り継いで30分ぐらいかかるわかりにくい場所にあった

駅からの方向が全く分からず、何度も間違えて違う方向に歩いてしまった

心配で心配で、ほとんど走っていたから着いた頃には汗だくだった
会場に向かう電車の中、私の心臓はずっとばくばくいっていた
息がしづらかった

もし、セミナー会場にJがいなかったら?
私はどうすればいいの?

何とか到着し、「本日開催のセミナー一覧」を見ると、10個以上のセミナーが同時に開催されていた
つくづく何のセミナーか聞いておいてよかったと思いながら、「セミナー受付」という表示の方へ向かう

私はスーツも着てないし、おおよそ会社勤めなんかに見えない風貌で、最初に話しかけた男性は「は?」っていう表情で私を見た

この場違いな女。。何?って顔に書いてあった

結局その人は、別のセミナーの主催者かなにかで全く話が通じず…

次に話しかけた女性は、直接セミナーの部屋に行ってください、というので、部屋の前まで行ったのだけど、まさか講義真っ最中のところになんて入っていけないと引き返した

そして、総合受付の女性に、急用があるのでJを呼び出してくれと頼んだ
連絡は取れないのですか?と聞かれ、取れないんです、と言った
ただの不審な女に見えたと思う

確認するから待ってくれと言われ、しばらくしてまた別の人が来て、あと15分くらいでお昼休みになるので待てるか聞いてきた
待つことにした

会場には来ていますか?と聞いたら、来てると言ったので、とりあえず安否確認はその時点で取れた
でも緊張と動揺がおさまらなかった

しばらくして、Jが係の人に連れられて笑いながらばつが悪そうに歩いてきた

Jは私のアドレスを覚えていなくて
普段連絡には使わないメールアドレスに「今日iPhone忘れた」というメッセージを送っていた。。
私は気づくわけなかった

セミナー後、夕方、待ち合わせをして少しの時間会った
私はまだ、朝の動揺がおさまっておらず、興奮気味に、ああだったこうだったとJに会うなりまくしたてた

Jは呆れたように「声がでかくてうるさい」と言った

私は、私は…大変な思いをしてた
どれだけ心配したと思ってるの。。

Jからしてみれば、私は勝手に騒いだだけ、騒ぎすぎ

ごめんね、iPhone忘れただけじゃん
俺が悪かった
って言った

うん

私が勝手に騒いだんだ

なんだかなー
Rはセミナー会場に来ちゃうし
家からは会場に電話かかってくるし
電話がずっと鳴ってるけど大丈夫って
聞かれたよ

。。。。。。

私は言葉をなくした
J
なにを言っちゃったの
私に向かって…

涙が止まらなかった
前が見えなくてどこを歩いてるのか全く分からなかった

私は午前中のうちにJのiPhoneに8回電話した
29件のメッセージをハングアウトに送った

それを全部、奥さんは見た
着信音が鳴りまくったiPhoneはJの手の中でなく、奥さんの手の中にあった
私の名前は表示されないようになっているだろうけど、どうせ予想はつく

バカだなって思っただろう
JがiPhone忘れたことを知らずに、一人で大騒ぎして何度も何度も連絡していた私
滑稽以外の何者でもない

JのiPhoneをさわれる
当たり前、同じ家に住んでいて、Jの持ち物はすべてさわれる

Jは、真面目だから、奥さんに必ずセミナーの場所も題目も毎回きちんと伝えて家を出て行くんだ
今回私にそうしたように、優しく一つ一つ説明したんだろう
たぶん同じように。。。

Jの妻としてセミナー会場に電話
Jは「家の方から」の電話に出る

電話が鳴り止まないけど大丈夫?って聞かれ、大丈夫問題ないとJは言う
そこでJは笑ったんだろうか
私の愚行を奥さんと二人で笑ったんだろうか

私は惨めだった
過呼吸になるまで緊張し、大汗かいて会場に行き、うるさいって言われ、奥さんとの親密な繋がりを見せつけられ…

それを悲しいと言っても
Jはなにも否定せず、なんの慰めの言葉もなく…

そんなに泣いてるRに何を言っても通じない
別の日に話そうって言った

私は悲しかった
今も悲しい

Jと奥さんの繋がりなんてひとかけらも見たくない
普通に仲良いのはわかる、二人の間になんの問題もないのもわかる

知ってる

だけど、
そんなこと、私に示さなくていい
嘘ついてほしいくらいなの

私は傷ついてる
J
今一度、私にとって、その人の存在がどんなだか考えてみてほしい
どれだけきついか考えてほしい

二人が組んで私を踏み潰す図式を、
思い出したくないの

どうか隠してほしい

もうこんなことを言いたくない

今、自分の心がすごく荒んでるのはわかってる
Jの言うように思い詰めすぎかもしれない

けれど
不安でしかたない毎日だから
どうしても
こうなってしまう

あの日
私を抱きしめて欲しかった
R、大丈夫だよ
って言って抱きしめてほしかったよ

このことはここに書いて終わりにする

どうかJ、私の気持ちわかって

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