指輪の意味、これから

湯船に沈む自分の身体を見た
年相応に形が崩れ、皮膚も汚い
冷え切った身体がどんどんお湯の温度を奪っていくのがわかる
実家のお風呂は追い炊きがなくすぐに冷めてしまう
浮力が働いていないみたいに身体がずんと沈む
湯船の底に静かに漂う自分の腕をしばらく眺めていた
Jにもらった左手の薬指の指輪と右腕のブレスレットだけが、悲しくキラキラ光っていた

Jにもらった指輪を左の薬指にしてる人が私の他にもう一人いる
Jは一夫多妻なのかな
多妻じゃなかった
私、Jの妻と法律的にも世間的にも一切認められてなかったんだった
この指輪に何の意味が込められていたんだったか、わからなくなって
右手にしようとしたらサイズが小さくて入らなかった
指輪の裏にJtoRの刻印とサムシングブルーのサファイアが入っている
Jが「左手の薬指にする指輪じゃないと買ってあげないよ」と言って買ってくれた結婚指輪だ
Jの指輪はまだ買っていない
今買ってもしてくれない

喫茶店で20数年前、会社を辞めていいかJに相談されたことを思い出した
会社を辞めれば結婚が先延ばしになる
それでもいいか聞いてきた
私は早くJと結婚したかったけど、勉強して大学院に行きたいというJの意志を尊重したかった
だから私は「結婚は少し先延ばしになってもいいよ、やりたいことをやって」と言った

その時私は、左手の薬指に「婚約指輪だよ」と言ってJがくれた一粒パールの指輪をしていた

私がここで先延ばしにしないでと言えばよかったんだと数え切れないくらい後悔した
今日も入れたら、もう1000回ぐらい後悔した
Jは勉強をやめちゃった上に、この世で一番私を苦しめた人と結婚しちゃった
私が先延ばしを許したことは本当に何の意味もなさなかったんだ
意味をなさなかったどころか最悪の事態を招く幕開けとなってしまった

そんなことを考え出して
たまらなく辛くなって
最悪な1日になってしまった
Jからの連絡は何時間もなかったから、きっと家族で出かけて楽しく過ごしてるんだろうとしか思えなかった
このままでは心が荒んでいってどうにもできないと思った

将来が何一つ見えないせいで、極度の不安に襲われ、経済的にもいよいよ真剣に危機感を覚えるようになった
この先ずっとアルバイトでは、貯金もできず生きていけない
だから正社員になるしかない、と思ったけど、この歳と自分のスキルではほとんど仕事がない
ずっと「エルダー応援」の検索をかけて派遣の求人をもくもくと探していた

派遣会社に登録するときに名前や生年月日はもちろん、既婚か未婚を聞かれる
未婚

未婚なのに左手の薬指に指輪してる
いいのかな私
指輪していいのかなと思うけど
外したくない
J、外さなくていいんだよね

このサイトの二人のプロフィールには
一つのお部屋に帰ることを目指す
と書いてある

J
そうだよね
J
目指していくんだよね

抱きしめて何か言ってJ
私が言ってること全部に対して
Jの考えや思いを聞かせて
MTしながら

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