夫婦茶碗

会社の私が所属する部門のメンバーは全部で12人

私の一つ年下のみかんが最近再婚した

去年の今頃、社員旅行では、みかんと道中ほぼずっと共に行動し、部屋も二人部屋で一緒だった

その時、彼の写真を見せてもらったのだが、まもなくその人とは別れ、年末に今の旦那様と出会ったらしい

新婚旅行のマルタから帰ってきたタイミングでみんなでお祝いを計画し、お金を出し合って深川製磁の夫婦茶碗を買った

夕方会議室に12人集まり、おめでとう!と言いながらプレゼントを渡すとみかんは照れ臭そうにしてとても嬉しそうだった

みかんは幸せいっぱいの表情で何とも可愛らしくキラキラに輝いていた

誰かが「旦那さんのこと、何て呼んでるの〜?」と聞き、そこから何故か端から順に言っていこう、となってしまった

そんなのやめてくれよ、と思った

自分の番がきたら、

「すんません、呼ぶ人がいません」って言うのか?

それとも、「えーと、Jくん。。旦那さんじゃないけど。。」って言うのか?

って瞬時に頭が混乱してくらくらした

私はたまたま一番最後に答える位置にいたけど、自分の番がまわってくることが怖くて、身を固くしてじーっとみかんの影に隠れるようにしていた

幸い途中の何人か目で、自然消滅的に辞めになって、ほっとした

万が一私のとこまできたら、全く笑えないような冗談にもならないことを口走って、その場に相応しくない雰囲気をもたらしてしまったに違いない

そのことを思い返していたら、それに関連してどんどん悲しいことを思いついてしまい、ただでさえ落ち込んでいるというのに、踏んだり蹴ったりだなと思った

そして、もう読み返しもしていないのに、何度も何度もJのメールの言葉が頭の中で繰り返され、奥さんとJ、二人の単位をまざまざと感じ、イメージが襲いかかってきて…再び震えがきた

指輪。。奥さんの薬指が正解で、私の薬指は嘘つきってこと?

私Jと結婚してないし、ちゃんと婚約してるわけでもない

奥さんは堂々と指輪をしているんだろう

なんて悲しい

夫婦茶碗か。。羨ましい限りである

私はまるでその真反対ぐらいのところにいるなあ。。しかもその位置で、さらにドロドロのヘドロに足を取られてもう少しで頭まで沈みそう…

ぼうっと立っていたら、めちゃくちゃ電車が混んできてぎゅうぎゅう押されて潰されて、余計に虚しくなった

痛いし疲れたし悲しいし苦しいし…

この惨めなおばさんを誰かどうにかしてって思った

自分は決して結婚を焦っているわけではない。。と思おうとしていたけど、大量の白髪を抜きながら、おばあちゃんになってからなんて絶対に嫌だと思った

私何歳になったらJと暮らせるの?

会社では労務に関わっている限り、妻だの扶養だの夫だの結婚だの引越しだの出産だの、気分が悪くなることばかりに遭遇

私はアルバイトの身で、それほど深く関わらないから、まだよかったけど。。

人事労務の正社員になんて絶対になりたくないと思う

私はみんなのように社会的に真っ当な人間ではないんだ

大幅に外れている

だから、放っておいてくれって思う

普通のまともな人生歩んできたような人は、誰一人として私の苦しみや惨めさなんてわかりゃしない

唯一わかってくれるのは、思慮深い20歳年下のるっこちゃんぐらいだと思う

Jは私と違って、周りからすれば、まともな人間に見えるだろう

私の存在をバレないように完全に押し隠してるから…

病気の奥さんに尽くす優しくて紳士的な愛妻家とでも思われてるだろう

幸せな家庭そのもの

私が知らないところで、二人で協力してそれを保とうとしているのだろう

私という人間をなかったことにして

私の存在を示すものは、Jにしぶとくまとわりつく匂いくらいだ

香水の匂い

匂いを指摘する奥さんになんと言うの?

大丈夫だよ、かな

気のせいだよ、かな

最悪

会話の存在自体が吐き気

だからもう香水はつけない

私はいつまでも「ないもの」として扱われ、Jの表の生活の中では存在を認められないのかな。。

私のことを悪く言ったことは一度もない、と言っていたけれど、誰に対してかな

奥さんに対してかな

悪くも言わないし良くも言わない、そういうことかな

その方が、波風立たない

本当のJはどれ?

Jはゆらゆら揺れてるの?

Jにとって、私は、恥ずべき隠し通すべき存在なの?一体いつまで。。

私はいつJの一番になれるんだろう。。

俺はRを愛してるから、って宣言するほど、気持ち強くないのかな

世間や会社や奥さんに悪く思われたくない気持ちが大きいのかな

私を隠すことに一生懸命になってるみたい。。

会社の人に手を繋いでるとこ見られたら大変

キスしてるとこ目撃されたら大変

奥さんとなら別に見られても問題ないものね。。

Jと奥さんの単位で、私をこれ以上懲らしめないでほしい

単位があるのは事実

だけど、私には微塵もそのことを見せないでほしいの

二人で一緒にいるとこ、会話するとこ、感謝し合ってるとこ、優しくし合ってるとこ

そういうことをイメージさせるようなことを一切私に言わないで

震えがくるんだ

少しは私の気持ちを考えて

私にとってどういうことかを想像してみて

気をつけて発言して

切実な願いだよ

私何かした?何もしてない

私は何も悪くない

一生、こんなことで苦しんで、惨めな影の存在なんて耐えられないって思ってる

私だって、堂々と、Jと毎日夫婦茶碗で美味しいご飯を食べたいんだ

Jの服、一切触らないでほしい

Jの匂いを嗅がないで

もう、そばに寄らないでよ

奥さんだから、「私はJにいろんなことして当たり前」と思ってると思う

それにJは決して拒否しないで何でも受け入れてるだろうと思う

だけど本当は影で

Jは私を死ぬほど抱きしめてる

そんな人嫌でしょう

だから同じ部屋で寝ないで

こんなこと、こんなとこで、叫んで惨め

誰にも声届かないし

聞いてない

私の叫びは抹消されてるの

いつも

嫌な女だね

荒んでる

何で私、こんな悪者にならなきゃならないの

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