大事なことは電車の中で

抱き合っている間に、どうしても耐えられなくなって、今までこの場所で叫んできたようなことを口に出してしまった

Jは何もその時、はっきりしたことを言わなかったので、Jの中に、実際に何も答えがないのかと思い、どうしたらいいのかわからなくなった

部屋を出たら暗黙の了解で帰路につくから、もう少し一緒にいたいとも言えず…

最寄りの駅でいつも反対方向の電車に乗るのだけど、私がどうしょもない状態だったので、少し同じ電車に乗ろうか?と言ってくれた

もし、そのまま別々に帰ってしまうなら、私は駅のベンチかどこかで落ち着くまで座っていようと思っていた

途方に暮れていたし、涙も止まらなかったから

電車を待っている時、

Rは一緒に住むならどこに住みたい?

と突然聞いてきた

私は失望感でいっぱいだったから、びっくりして何も答えられなかった

「やっぱりRの実家かな?

Rの実家に俺のお茶碗まだあるの?」

「あるよ」

「まだ割れてないんだね。。確かお母さんが買ってきてくれたんだよね。。」

「使わないでとってあるよ」

電車に乗り、Jは続けた

「俺のプランはね…

Rの実家に住むことになる気がしてる、それが現実的でしょ

コンセントを直さなきゃね

あのお風呂に一緒に入ってないよね

一緒に入ろうね」

「狭いよ。。」

「それでもいいよ」

「そうだね」

「あの辺、俺土地勘あるからさ。。」

「俺、大事なことは、いつも電車の中で言ってるな

付き合ってほしいということも電車の中で言ったね

電車に乗るとスイッチが入るんだ

俺電車オタクだからね」

笑いながらJが言った

私の降りる駅に着く時、

手を強く握って、

「R、絶対に離さないから、大丈夫だよ」

と言ってくれた

26年前の夏、花火大会の帰りの電車で、Jに付き合ってほしいと言われた

今日と同じように、ドアの前に向き合って立っていた

今日ほどくっついてはいなかっただろうけれど、窓の外が暗くて、似たような雰囲気だった気がする

ホームに降りた私と、電車に乗ったままのJは、見えなくなる瞬間まで見つめあって、愛してると言い合った

電車に乗っていたのはたった7分

この7分は、あの花火大会の時のことのように、二人の記憶に刻まれるだろうか

帰ってからのハングアウトで、

「早く今の会社を辞めないといけない

だけどお金がないと困るから何とかしなきゃね

今の会社でたくさんお給料をもらっているから、今日のように会えるけど、辞めたら電車にも乗れないよ。。そこが一番のネック

何とか今の会社じゃないところで稼げるようにならなきゃ」

とJは言った

今、たぶんJは一生懸命それを考えているんだね

私と暮らすためには今の会社は辞めなきゃいけない(それは場所的にか、それとも体裁上かはわからないけれど…)

でも、お金が必要だから、簡単に辞めるわけにもいかないし、辞めるとしたら、何か新しい稼ぎ方を考えなければならない。。

それでたぶんいろんなことを考えているんだろう

私にあまり話さないだけで、JはJなりにどうしたら良いのか、すごく考えているのかもしれない、と思った

目標がほしいんだよね

辛いよね

と同調してくれたので、私の気持ちはわかってくれているようだった

ずっと二人ともにいい顔はできないよ

と言ったら、

そうだよね…

と言ったから

やっぱり今そういう風にしている自覚がありつつ、どうしようもないんだ…

と思い、失望したのだった

Jは迷ってるの?

と聞いたら、

迷っていない、

と言った

何もはっきりとしたことが決められない今、曖昧な答えしかできないのだと思う

たぶん、確信をもって言えることしか、Jは言わない

具体的な、確実な答えがJの中で固まらない限りは口に出さないのだと思う

「こうするつもり」という約束も、果たせなかったら困るから言えない

「絶対にこうするんだ」という強い決意も、何かの外的要因でくずれるかもしれないと思っているから、そう簡単には言えない

私はJの願望だけでなく、意志が聞きたくて…

Jは私と本当に一緒に暮らしたいの?

って聞いたの

暮らしたいよ、と言ったJに

ちょっとだけそう思うの?

って聞いた

そしたら、

すごくそう思う

って言った

それでも、あまりにも不安で悲しかったから、この最後の10分くらいの時間に「救われた…」と思ったのだった

お金、どのくらいあればいいんだろうか

お金が今より少なかったら、絶対に無理なんだろうか

私たちの運命は、お金に左右されているということだろうか

今の会社辞めないと、私たち絶対に一緒になれないんだろうか

私たちは、Jの仕事によっては、望みが持てないのだろうか

私たちが一緒になるためには、最低限何が必要なんだろうか

私はあまりわかっていないのかもしれない

Jの細かな事情はあまり知りたくないから、無意識のうちにわからないままにしてるのかもしれない…

Jが二人のために動く時、私はそばにいて精神的支えになることしかできないと思っている

J自身のことを私は何も決められないし、何も変わってやってあげることができないから…

日曜日を直前で空けてくれた

無理してくれたとわかる

高価な部屋代も、2時間かけて東京にくることも大変だってわかる

命がけだから、と無理したことについてJは言った

私も、ずっと命がけの行動をしてきた

これからもするだろう

同じ気持ちなら、Jも、命がけの行動をすることがこれからたくさんあるだろうって思う

私はJを信じ続け、指輪を毎日つけ、Jの行動を一番そばで見守り、Jを全身で受け止めていくんだ、と思った

2つは選べない

私と命を削るSYJをして、その後にその人に優しく笑いかけるのは悲しすぎるよ

Jからの愛のしるしの指輪をした人がずっと二人いるのも苦しすぎる

それはわかってね

私の気持ちわかってね

辛いよね、じゃなくて、辛くないようにしてね

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